大阪高等裁判所 平成5年(行コ)17号 判決 1993年12月15日
控訴人
熊野実夫
同
植田肇
同
株式会社岩崎経営センター
右代表者代表取締役
岩崎善四郎
控訴人
川端悦子
同
小坂静夫
右五名訴訟代理人弁護士
井上善雄
同
辻公雄
被控訴人
岸昌
同
永井利夫
同
西野陽
同
吉村鉄雄
同
佐々木砂夫
同
浅田貢
同
川村三郎
同
西川徳男
同
岩見豊明
右九名訴訟代理人弁護士
高坂敬三
同
阿多博文
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 当審における新請求を棄却する。
三 当審における訴訟費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人岸昌、同永井利夫、同西野陽、同吉村鉄雄は、大阪府に対し、各自一四七万六五〇〇円を支払え。
3 被控訴人岸昌、同永井利夫、同西野陽、同佐々木砂夫は、大阪府に対し、各自一四七万六五〇〇円を支払え。
4 被控訴人岸昌、同永井利夫、同西野陽、同浅田貢は、大阪府に対し、各自一四七万六五〇〇円を支払え。
5 被控訴人岸昌、同永井利夫、同西野陽、同川村三郎は、大阪府に対し、各自一一万二三四二円を支払え。
6 被控訴人岸昌、同永井利夫、同西川徳男は、大阪府に対し、各自五九〇万六〇〇〇円を支払え。
7 被控訴人岸昌、同水井利夫、同岩見豊明は、大阪府に対し、各自五九〇万六〇〇〇円を支払え。
8 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二被控訴人ら
主文同旨
第二事案の概要
原判決の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加、訂正をする。
一原判決六頁一一行目の「本件配車は」の次に「庁用自動車(以下「庁用車」という。)を公用以外の私用にも利用させるものであって」と、同七頁一行目の「職員らにおいて」の次に「昭和六二年九月一日から昭和六三年八月末日までの間に」を加え、同二行目の「一七七一万八一〇〇円」を「一七七一万八〇〇〇円」と、同行の「返還するよう」を「返還すること、今後在職二五年議員各人に対し一台ずつの専用自動車の配車等の停止を」と改める。
二当審での主張
1 控訴人ら
(一) 仮に、被控訴人岸において、同吉村、同佐々木、同浅田、同川村、同西川、同岩見ら六名の府議会議員(以下「本件被控訴人府議会議員」という。)が在職二五年議員であるということで原判決別紙「在職期間・配車期間一覧」記載のとおり各人に庁用車一台ずつを配車していたことが全体として違法とまでいえないとしても、本件被控訴人府議会議員は、次のとおり右庁用車を公務外の私的目的のために使用し、これにより不法な利益を得て、大阪府に損害を与えた。したがって、本件被控訴人府議会議員にその損害を返還、賠償させるべきである。
(二) 被控訴人佐々木
(1) 平成元年六月二九日から三〇日にかけて、石川県加賀市の温泉ホテルでの自由民主党の議員団総会のために専用自動車(以下「専用車」という。)を往復利用し、右両日の走行距離五五一キロメートルのうち少なくとも四五〇キロメートルを右用務のために走行させた。
右車はガソリン一l当たり六キロメートル走行し、ガソリンの購入額は一l当たり一二〇円であるから、その損害はガソリン代九〇〇〇円となる。
(2) 平成二年三月二二日、愛媛県の道後温泉で開かれた自由民主党吹田支部の研修会へ専用車で行く途中に岡山県美作町へ立ち寄っているが、当日の走行距離二〇一キロメートルのうち、一八〇キロメートルは岡山県美作町へ行くために違法に専用車を使用したことになるから、その損害はガソリン代三六〇〇円となる。
(3) その外、夜の飲食のための会合、選挙対策としての自己の選挙区回り等のために専用車を利用し、さらに他の議員に比し、異常に多くの待機時間を費消しており、平成元年四月から平成二年三月までの間の実質公務外の利用によるガソリン代の損害は、二〇万円は下らない。
(4) 以上の次第で、被控訴人佐々木は大阪府に対し、二一万二六〇〇円を返還するべきである。
(三) 被控訴人川村
(1) 平成元年二月二五日に広島県福山市まで往復するのに専用車を利用し、五八七キロメートル走行させた。そのガソリン代は一万一七四〇円である。
(2) 選挙対策としての自己の選挙区回りのために専用車を利用することが多く、平成元年六月から平成二年三月までの間の実質公務外の利用によるガソリン代の損害は四万円を下らない。
(3) 以上の次第で、被控訴人川村は大阪府に対し、五万一七四〇円を返還するべきである。
(四) 被控訴人吉村
(1) 平成元年九月一九日に専用車を利用して滋賀県まで知人とともに往復し、二五七キロメートル走行させた。そのガソリン代は五一四〇円である。
(2) 平成元年九月二九日に三重県まで専用車に迎えに来させ、二二八キロメートル走行させた。そのガソリン代は二九〇一円である。
(3) 自己の選挙区回りのために専用車を利用することが多く、平成元年四月から平成二年三月までの実質公務外の利用によるガソリン代は一六万円を下らない。
(4) 以上の次第で、被控訴人吉村は大阪府に対し、一六万八〇四一円を返還するべきである。
(五) 被控訴人西川、同浅田、同岩見
自己の選挙区回りに専用車を利用することが多く、平成元年四月から平成二年三月までの実質公務外の利用によるガソリン代は、被控訴人西川は六万円、同浅田は四万円、同岩見は一四万円を下らない。
したがって、右の各被控訴人は大阪府に対し、それぞれ右各金員を返還するべきである。
2 被控訴人ら
(一) 本件請求は、被控訴人岸の本件被控訴人府議会議員に対して庁用車を配車する旨の決定行為が違法か否かを問うものであり、本件被控訴人府議会議員は右決定行為の相手方として大阪府が本件配車によって被った損害を賠償することを求められているところ(地方自治法二四二条の二第一項四号後段)、被控訴人岸の本件配車行為が適法であれば、右議員は違法な行為の相手方ではないから、その個々の具体的な使用方法の適否を問題とする余地はなく、主張自体失当である。
(二) 仮に、控訴人らの前項の主張が本件被控訴人府議会議員の専用車の具体的使用方法が違法であり、地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づき、その損害の返還を求めるとの趣旨であれば、請求原因を異にするものであるし、そもそも議員は同法二四二条の二第一項にいう「当該職員」に該当しないから、主張自体失当である。
また、右主張について、監査請求を経ていないし、既に行為の時から一年を経過しており、これらの点からも、右主張は不適法である。
第三争点に対する判断
原判決の「第三 争点に対する判断」記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加、訂正をする。
一原判決二三頁一一行目の「<書証番号略>、」から同二四頁六行目までを「本件配車(本件被控訴人府議会議員に対する原判決別紙「在職期間・配車期間一覧」の欄外記載の損害賠償請求対象期間中の配車)について、右認定を覆すに足りる証拠はない。」と改める。
二控訴人らは、当審において、本件被控訴人府議会議員の平成元年二月ないし六月から平成二年三月にかけての専用車の使用に公務外の私的目的のためのものがあり、これにより同被控訴人らが不法な利益を得たと主張して、右利益相当分の損害金を大阪府に返還または賠償することを求めているが、右主張が地方自治法二四二条の二第一項四号後段に基づく請求なら、右議員らの専用車使用の前提となる大阪府知事の専用車の配車決定行為が違法であることの立証がないし、また同議員らの専用車の具体的使用方法そのものが違法であることを前提としてその損害金の返還を求める趣旨であるのなら、同議員らが地方自治法二四二条の二第一項にいう「当該職員」に該当しないことは明らかであって、いずれにしても主張自体失当である。
また、<書証番号略>及び被控訴人佐々木本人尋問の結果によれば、本件被控訴人府議会議員らの専用車の使用実態の中には、所属政党の研修会への参加のため遠方まで赴くのに専用車を使用するなど、厳密にいえば議員の職務の遂行のための使用といえるか否か疑問のあるものも散見されるが、右職務の遂行のための使用ではないと断定できるだけの証拠も存在しないから、本件被控訴人府議会議員らが右の疑問のある専用車の使用につき違法な行為があったとか、不当な利益を得たということができない。
したがって、控訴人らの右不法行為による損害賠償請求及び右不当利得返還請求は理由がないといわなければならない(なお控訴人らの当審における不当利得の新主張は、監査請求にかかる行為または事実から派生し、またはこれを前提として後続することが当然に予測されるものであるから監査請求前置の要件を充たしており、不法行為にかかる新主張は、損害の範囲についてのものであるから新たな請求を追加するものではないというべきである。)。
第四結論
右の次第で控訴人らの請求は失当であり、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がなく、また当審において新たに追加された不当利得の主張も理由がない。
よって、本件控訴及び当審における新請求をいずれも棄却することとし、民訴法八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官野田殷稔 裁判官熊谷絢子 裁判官樋口庄司)